STORY

20xx年。情報化社会の恩恵が多くの人々に認知されていき、
情報技術を中心とした人々の生活は、少しずつだが変化を見せていた。
テクノロジーの進歩は目覚ましく、すべての事象が科学の名の元に解析され、
多くの人間が『この世に不思議なことなど1つも無い』と思っている現代。
そんなときにでも、人々の間で囁かれる噂話に変わりは無い。
ここ数年で突如騒がれ始めている1つの噂。『人を食う影』---。

主に学生層を中心とした若者の間で囁かれ続ける『虚ろの夜』の噂。
黒ずくめの大きな人影に取り囲まれ、周囲の灯りが失われていき、深い暗闇に飲まれていくような感覚。
影に喰われた者は魂を失う。ある者は『虚ろの夜』を永遠に彷徨い、ある者はそのまま命を落とす。
どこかで聞いた昔話だと笑うしかないような奇怪な出来事。
魔法か呪いとでも思わないことには説明ができない。それほどの不可解な怪事件が相次いだ。

「バカらしい…。このご時世に魂だの神隠しだの、あるわけねーじゃんか…」
学友達の噂話を聞き流しながら帰路につく少年、ハイド。
そうやって否定をしながらも、日常の退屈を持て余し、心のどこかでそういった怪異に憧れる1人。

いつも通りの退屈な帰り道。彼のそんな思いは、唐突に突き崩される。
遠くに見えた黒い大きな人影が、急速に近づいてくる。不気味に輝く白い瞳が彼を捉えた。
突如襲いかかる不快感。揺らぐ足元。暗く濁る景色。---彼の元に『夜』がやってきた。
体中に黒い『なにか』が絡み付き、全身からすべてを吸い上げていくような感覚。
力の入らぬ四肢を為す術なく放り、その身をアスファルトに委ねようとしたとき、
彼の身体は、細い手で捕まえ上げられる。

「---まったく。どこを見て歩いてるんだ、オマエは」

暗闇の中に、聞き覚えのない女の声が微かに響く。
掴まれた腕を辿ると、そこには飾り気のない服装の小柄な少女。
もう一方の腕に携えられた無骨な大刀が、この異様な光景に拍車をかける。
飾り気のない服を纏い、少年のようにも見えるその少女は、
握られたそれを軽々と振り回し、彼の周囲『闇』を薙ぎ払っていく。
それが、彼がその日その場で見た、最後の光景だった。

急速に薄れ行く意識の中、聞くべきことはいくつもあった。その中で彼は最も重要なことを口にする。
「オマエは…、一体何者なんだ…?」

「なんだ…まだ喋れたのか。なら丁度良い。オマエはいつまでそうしているんだ。
 生きて帰りたければ立ち上がれ。立つ気が無いなら置いていくぞ」

『ふざけるんじゃねぇ』。声にならない声を上げ、
全身に力を込めるも、彼女の支え無しには立ち上がれない。
立てるだけ立派だ、そんな情けない言葉をかけられながら、2人はその場を後にする。
これが2人の出会い。物語はここを軸に揺れ動いていく---。